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複雑なテーマをシンプルに伝える、クリエイティブな思考法ーーヴィジュアルコミュニケーションの奇才、ノーマ・バーに学ぶ「グラフィック・ストーリーテリング」

16/09/2014

 

 9月10日、『WIRED』や『New York Times』など、世界中のメディアで活躍中のイラストレーター

ノーマ・バー氏のレクチャーイベントが、原宿のアートスペース「VACANT」で開催された。

 

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>> ノーマ・バー来日!ヴィジュアルコミュニケーションの奇才による「Graphic Storytelling」レクチャーイヴェント開催 #graphic – WIRED.jp

 

 英国に活動の拠点を置くバー氏は、イスラエル出身。

90年8月にはじまった第一次湾岸戦争のとき、街中に貼られたサダム・フセインの肖像と

放射能のハザード・シンボルが重なった。

この原体験が、複数の異なる要素を組み合わせてひとつのテーマを表現する

彼のスタイルを生み出したのだという。

 

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img via Piterest

 

 当日のレクチャーのテーマは「グラフィック・ストーリーテリング」。

サダム・フセインのイラストから始まるバー氏の作品の軌跡を追いながら、

「最小限の要素で最大限のコミュニケーションをする」ための思考法を学んだ。

ちなみに、会場で紹介された作品を含むバー氏の全作品はPinterest上で公開されている。

 

 トークセッションでは、バー氏が手がけた『WIRED』VOL.9のカバーデザインを

具体例に、クリエイティブなアイディアを生み出すためのプロセスや心構えが語られた。

今回はその内容を振り返りながら、「ヴィジュアルコミュニケーションの奇才」

ノーマ・バーの思考法を紹介する。

 

 

 

『WIRED』VOL.9「ひらかれた政府」特集号の表紙ができるまで

 

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>> 雑誌『WIRED』VOL.9:特集は「オープン・ガヴァメント」 – WIRED.jp

 

 閉ざされた国会議事堂の窓から、カラフルなイマジネーションがあふれ出し、

対話するふたりの人物が現れるーー。

この印象的なイラストは、どのようなプロセスによって生まれたのか。

トークセッションには『WIRED』編集長の若林恵氏と

同誌のアートディレクターである藤田裕美氏も登壇し、

バー氏のクリエイティブな思考プロセスに迫った。

 

「おもちゃの車みたいに、何度も壁にぶつかった」

 「オープン・ガヴァメント」というシリアスなテーマは、藤田氏を悩ませたようだ。

写真では表現が直接的すぎるし、コラージュ系のアートもリアルすぎる。

より抽象的で、かつ本質を表現できるアーティストとして白羽の矢が立ったのが

バー氏だった。

 

 編集部からテーマとモチーフを伝えられて依頼を受けたバー氏だが、

「最初は壁にぶつかった」と明かす。

「おもちゃの車みたいに、何度も壁にぶつかった。

ぶつかっては進み、進んではぶつかって…」

 

 バー氏はデジタルで作品を作っているが、構想の段階では手書きだ。

納得がいくまで、ひたすらスケッチブックにアイディアを描いていく。

「上から、横から、下から…ひとつのものを、あらゆる視点から観察する。

テーマに関するリサーチもするし、アーティストとしての視点だけではなく、

科学的な問題解決の視点からもデザインを考える」

 

 こうして生み出された表紙のデザイン案は、なんと10パターン。

バリエーションも含めると、実に30種類以上のイラストが編集部に送られてきたという。

「アーティストの中には上から目線の人間もいるけど、僕は何度も壁にぶつかりながら、

努力を重ねて作品を作っている」

 

「締切は絶対に遅れない」

 最終的に表紙として使われたイラストの他にも、国会議事堂の形をしたUSBの

モチーフなど、アイディアで終わるにはあまりにも惜しい作品ばかりだった。

これだけ多くの良質なアイディアを生み出すには、どれだけ多くの時間が

かかるのだろうか。締切は守れるのだろうか。

 しかし、それはいらない心配だった。

バー氏は絶対に締切には遅れず、1日前には作品を提出するのだという。

これに関しては、若林編集長と藤田氏が

「(締切は)海外のアーティストの方がきっちりしている印象。

むしろ日本人の方がずるずる先延ばしになる」と、興味深い所感を述べている。

こうした信頼関係が、次の仕事にも繋がっていくのだろう。

 

一番好きな作品について

 セッションの最後、会場の参加者から一番好きな作品について聞かれた

バー氏は、『Esquire』紙の表紙を飾った『スター・トレック』のイラストを挙げた。

 

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img via Piterest

 

 その理由として、バー氏は「ひとつのエレメントだけで表現できたから」と語る。

少ない要素でひとつのテーマを表現できると「幸せ」なのだという。

 

 「でも、やっぱり絵の中にストーリー性のある作品が好きだな」

その答えから、アーティストとしての原点を忘れないバー氏の誠実な姿勢を感じた。

 

 

 

「世界の厳しい現実を切り取って、わかりやすく伝えたい」

 

 バー氏は、処女作『GUESS WHO』(日本語未訳)の中で、以下のように語っている。

 

   “Taking the world’s toughness realities and making them easy to take in.”

                          - Noma Bar “GUESS WHO

 

 現実をそのまま切り取る写真だと、「リアリズムにこだわりすぎて」

伝わりにくいことがある、とバー氏は言う。

バー氏にとって、イラストは極端な出来事をシンプルに伝えるための

最適なコミュニケーション手段なのだ。

 

 もちろん、シンプルでわかりやすければ良いというわけではない。

極端に要素を削った結果、事実を歪めて伝えてしまう危険性があるからだ。

最適な表現方法を考えるための努力を怠らないこと、

そして受け手はもちろん、自分の信念に対して誠実であること。

ノーマ・バーの思考プロセスは、なんでも簡略化しようとする

現代社会にこそ求められている。

 

 

(ライター:カクノ  アイキャッチ:『WIRED』イベント告知ページより)

 

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