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デザインの力で社会を変えようとした、ロシア・アヴァンギャルドの挑戦

07/10/2014

 

 「ソーシャルデザイン」というワードを、よく聞くようになった。
簡単に言えば、自分たちの手で理想の社会を作っていこうというムーブメントだ。
日本では、「人と人とがつながる仕組みをデザインする」ことで地域や社会を
よりよいものに変えていく「コミュニティデザイナー」という職業を
新たに生み出した山崎亮さんや、
「ほしい未来は、つくろう」と語るウェブマガジン『グリーンズ』を運営する
NPO法人グリーンズなどが、その担い手として有名だろう。

 

【参考】日本と世界のソーシャルデザイン – グリーンズ

 

 また、佐久間裕美子さんのベストセラー『ヒップな生活革命』(朝日出版社)
でも紹介された米国のポートランドは、このムーブメントの象徴みたいな場所だ。
大量消費社会への反省と大自然の猛威を前にしたときの無力さから
「生きる」ということを改めて考え直したアメリカ人のライフスタイル改革は、
日本でも多くのメディアが取り上げるなどして一大ブームとなっている。

 

 「自分たちの手で理想的な社会をつくろう」という熱い思いは、
時代や国境をこえて多くの人々を魅了している。
のちに「ロシア・アヴァンギャルド」と呼ばれる、
1890年代から1930年代のロシアで起きた一連の芸術運動も、
理想の社会を求めて革命に身を捧げた芸術家たちの軌跡だといえるだろう。

 

 この芸術運動は映画や建築、デザインなどの複数の領域におよび、
シュプレマティスムや構成主義など、さまざまな芸術の流派が混在している。
そのため、具体的な定義や主な担い手を画定することが難しく、
現状では専門家のあいだでも意見の一致が得られていない。
確実に言えるのは、この運動が1914年の第一次世界大戦や1917年からはじまる
社会主義革命といった激動の社会情勢に呼応する形で盛り上がりを見せ、
トロツキーやスターリンが現れる1930年代には衰退を迎えた、ということだ。
ロシア・アヴァンギャルドは、新しい芸術形式を求める芸術家が、
新しい社会を求める革命に共鳴する形で発展したといえるだろう。

 

 

 東京・用賀の世田谷美術館で11月24日まで開催されている
「松本瑠樹コレクション ユートピアを求めて
ポスターに見るロシア・アヴァンギャルドとソヴィエト・モダニズム」展は、
ロシア・アヴァンギャルドの軌跡をポスター芸術に見る企画展だ。
激動期におけるロシア(ソ連)の社会情勢がよくわかる貴重な政治ポスターと
映画ポスター、約180点が展示されている。

 

 

 展示作品は三部構成になっている。
1901年から1921年までの作品は「Ⅰ 帝政ロシアの黄昏から十月革命まで」と題され、
第一次世界大戦下の「今日のルボーク」社による風刺漫画的なポスターや、
革命下の壁新聞「ロスタの窓」が到達した、極度に単純化された文字と図による
共産思想の宣伝ポスターが展示されている。

 

カジミール・マレーヴィチのデザインとウラジーミル・マヤコフスキーのテキストによる、「今日のルボーク」社のポスター。進撃するドイツ兵を農夫が追い払っている(1914年)

カジミール・マレーヴィチのデザインとウラジーミル・マヤコフスキーのテキストによる、「今日のルボーク」社が制作した1914年のポスター。進撃するドイツ兵を農夫が追い払っている(img via colocal.jp

 

「ロスタの窓」は、革命で閉じた商店の窓に掲示された壁新聞だ。字が読めない市民でも理解できるようにシンプルかつ簡潔なイラストで文章を説明している。(img via PRISKA PASQUER)

「ロスタの窓」は、革命で閉じた商店の窓に掲示された壁新聞だ。字が読めない市民でも理解できるようにシンプルかつ簡潔なイラストで文章を説明している。(img via PRISKA PASQUER)※上の作品は世田谷美術館にありません。

 

当時のロシアは、都市部でさえ識字率が50%に満たなかった。
そのため、文字に頼らないヴィジュアル表現は重要な宣伝手段だったのだ。

 

 

「Ⅱ ネップ(新経済政策)とロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター」では、
ステンベルク兄弟やプルサコーフといった代表的なロシア構成主義の芸術家による
驚くほどハイセンスなモダニズム・デザインに圧倒されるだろう。

 

img via Flickr

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img via Piterest

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戦時共産主義によって悪化した市場経済の回復を図って導入されたネップは、
資本主義的な要素を一部認めるものであり、事実上の共産主義の後退であった。
そのような時代背景を鑑みると、「前衛的」(アヴァンギャルド)で大胆な
デザインのポスターが生まれたのも納得だ。

 

また、この時期に誕生したデザインは後世にも影響を与え続けている。
本稿のアイキャッチにも使用したアレクサンドル・ロトチェンコによる
「レンギス あらゆる知についての書籍」(1924年のデザイン)は、
スコットランドのロックバンド「フランツ・フェルディナンド」のセカンドアルバム
「You Could Have It So Much Better」のジャケットデザインの元ネタにもなっている。

 

img via Amazon.jp

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ネップの廃止から第一次五カ年計画の導入、そして1932年4月の共産党中央委員会による
事実上すべての芸術団体の解散を命じる決議にいたるまでの作品は、
「Ⅲ 第一次五カ年計画と政治ポスター」に展示されている。
この頃の作品は、現代でいうところのインフォグラフィックのように
データと図を組み合わせたものや、大々的にスターリンの写真を使用した
プロパガンダ色の強い作品など、デザインよりもメッセージに重きを置いている。

 

 

ロシア・アヴァンギャルドは、デザインの変遷が時代背景と
リンクしている点が大変興味深い。
デザイン史のみならず世界史にも刻まれる、とても貴重な歴史的遺産だ。

この機会に、ぜひ世田谷美術館まで足を運んでみてはいかがだろうか。

 

 

リファレンス

世田谷美術館公式サイト

 

 

参考文献

桑野隆「ロシア・アヴァンギャルド再考」北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター、1996年

ロシア・アヴァンギャルド – 現代美術用語辞典 ver.2.0

 

 

(ライター:カクノ アイキャッチ:Metropolis

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