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島本和彦『アオイホノオ』、主人公・焔燃(ホノオモユル)の残念すぎるダメダメっぷりから人生を学べ!

07/08/2014

 

『ゲッサン』(小学館刊)にて連載中の島本和彦による学園青春漫画『アオイホノオ』。時は1980年代の初め。大作家芸術大学に通う焔燃(ホノオモユル)はプロの漫画家になることを夢見ていた。だが、そんなホノオの前に、後に『新世紀エヴァンゲリオン』の監督となる同級生の庵野秀明らが立ちふさがる。庵野たちが創る作品のクオリティの高さに自信を失っていくホノオであったが、それでも少しずつ、夢に向かって歩み始めていく。

 

単行本の冒頭には「この物語はフィクションである」との記述があるものの、現在でも活躍する漫画家やアニメーターが実名で登場するなど、作者・島本和彦(=主人公・ホノオモユル)の自伝的作品として多くの読者に親しまれている。テレビドラマ化もされ、2014年7月19日からテレビ東京「ドラマ24」枠内で放送中だ。

 

それにしてもこの『アオイホノオ』という作品、主人公のホノオモユルがとにもかくにもダメダメなのだ。物語が進行するにつれ、「ホノオサイド」と「庵野サイド」が交互に描かれていくのだが、庵野秀明らが着実にその才能を開花させ、プロの道へと一歩ずつ近づく姿が描かれていくだけに、ホノオのダメさがことさらに際立って見える。

 

今回はそんなホノオのダメっぷりのなかでも、筆者が特に気になった3つのダメダメポイントをご紹介しよう。彼を反面教師にすることで、実に多くの学びを得ることができるはずだ。クリエーター志望の若者は、この3つを実践しないよう心がけるだけでも、だいぶ夢の実現に近づけるはずだぞ!

 

 

形式にこだわりすぎる

 

記念すべき第1章。大作家芸術大学に通うホノオモユルは、プロの漫画家になることを目指していたが、当時の連載陣、あだち充に対して「何かが足りんのだ!」、高橋留美子には「別の雑誌で描いたほうがいいんじゃないのかっ」などと一人でぶつぶつ偉そうに評論しておきながら、自分はなかなか漫画を書こうとしない日々を過ごしていた。

 

さすがにマズイと思ったのか、そろそろ口だけでなく手も動かさねばと感じたホノオは、漫画雑誌への投稿を決意するが、投稿作品の募集要項を見て驚愕する。

 

「投稿用原稿用紙のサイズは――タテ270mm ヨコ180mm !? どうやってはかるんだ、コレは!?」(島本和彦『アオイホノオ』第1巻33頁)

 

プロになるための最初の試練、「原稿用紙のサイズ規定」に恐れをなしたホノオ。一度線を引いてはみたものの、定規は一本しか持ってないし、イマイチしっくりこない。

 

「もし…漫画の案も絵も合格ラインなのに…原稿用紙のワクが正確でなかったので不合格ってこともありうるのか!?」(島本和彦『アオイホノオ』第1巻34頁)

 

ホノオよ!「漫画の案」も「絵」も合格ラインどころか、まだ何を書こうかも決めていないお前が、なぜそこまで「ワク」の心配をする!!

 

そしてコレである。

 

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「プロのしきいは…意外と高いぜ!!」(島本和彦『アオイホノオ』第1巻34頁)

 

ホノオは「ワク」を引く作業から、プロの厳しさを身をもって実感した。負けるな!ホノオ!「ワク」なんかより高い壁に、お前はこれから幾度となくぶつかっていくことになるのだぞ!!

 

これが第1巻34ページでの出来事だ。そして100ページ以上もの月日が流れた第1巻150ページでは……

 

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「漫画のワクだけは引き終わりました!16ページ!!」(島本和彦『アオイホノオ』第1巻150頁)

 

……よく頑張ったぞ!ホノオ!これでプロへ一直線だ!

 

形式は大事といえば大事だが、あまりに気にしすぎるのはおかしいだろう。ホノオの場合、明らかに形から入るタイプで、「ワク」を引いたことで既に満足してしまっているのが問題だ。プロ漫画家への始めの一歩を踏み出せた自分に酔いしれているのかも知れないが、実はまだ何も始まっていないということに気づいていない。だけどこういうことって、実は案外よくあるかも。

 

 

手塚治虫に対する絶対的信頼

 

ダメな人間は自分の身の丈をわきまえることなく、すぐに天才や偉人の真似をしようとする。ホノオモユルもそんなダメ人間の一人だ。自らに降りかかる重要な意思決定の局面では、自分で考えることを放棄し、あまりにも偉大な先行事例を真似る。

 

大作家芸術大学の映像計画学科に入学したホノオ。自身がこれから漫画家を目指すべきかアニメーターを目指すべきか決めきれずにいた。

 

「手塚治虫は両方やっている。だから!どちらに力があるのかわからん!」(島本和彦『アオイホノオ』第1巻18頁)

「手塚治虫は両方やっている。だから!どちらに力があるのかわからん!」(島本和彦『アオイホノオ』第1巻18頁)

 

第1巻の18ページ。この時点でホノオは既に手塚治虫を絶対化し、自分で物事を判断することができなくなっている。思考停止状態だ。「手塚治虫は漫画とアニメを両方やっている」=「だからどちらに力があるかわからない」=「どっちか決められない」。ホノオよ!手塚治虫が漫画しか書いていなかったらお前は漫画を書くのか!お前に自分自身の「信念」はないのか!

 

で、迷った挙句、ホノオはどちらを目指していくことに決めたかというと……

 

「実際手塚治虫もやってるし!」(島本和彦『アオイホノオ』第1巻26頁)

「実際手塚治虫もやってるし!」(島本和彦『アオイホノオ』第1巻26頁)

 

結局何も決めきれていないぞ!ホノオ!

 

ホノオよ!うわべだけ彼を真似たところで貴様自身は何も変わらんぞ!手塚治虫を見てお前がいま学ぶべきことは、「とにかく創り続けること」その一点のみだ!!

 

先人から何かを学ぶことはいいことだ。だが、ホノオのそれは明らかに違う。手塚治虫という極端な天才の、しかも表面的な部分だけを真似るホノオ。手塚治虫が寝る間を惜しんで連載原稿を書き続けたという事実は一切無視だ。本来、偉人から学ぶべきはそこだろう。だが人は決断を迫られたとき、時としてその決断を先人に委ねることで、失敗した際の責任から免れようとする。このホノオを笑って見ている人こそ、もう一度自身の今までの行動を振り返ってみて欲しい。

 

 

打ちのめされるとすぐあきらめる

 

ダメな人間は何かと壁にぶつかるとすぐにあきらめて別の道を探そうとする。決してその壁を乗り越えようとはしないのだ。

 

ようやく描いた漫画を出版社に持ち込んだにもかかわらず、いい感触が得られなかったホノオは、いともたやすく漫画家の道をあきらめ、新たな道を開拓しようとする。

 

「やっぱアニメだよ!」(島本和彦『アオイホノオ』第3巻149頁)

「やっぱアニメだよ!」(島本和彦『アオイホノオ』第3巻149頁)

 

早速アニメーション制作に取り組むホノオ。しかし、学内で開かれた学生制作のアニメ・特撮作品の上映会で庵野秀明のアニメーションを目撃。その完成度の高さにホノオは完膚なきまでに打ちのめされる(あまりのショックに目の前が真っ暗になり、気づいたらベッドで横になっていた)。

 

そして……

 

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「アニメ…やめるか…」(島本和彦『アオイホノオ』第4巻49頁)

 

早い!あきらめが早過ぎるぞ!ホノオ!

 

しかもここでも手塚治虫が登場。

 

それは結果論だぞ!ホノオ!手塚治虫は最初から漫画で稼いだ金でアニメをつくろうなどとは目論んでいないと思うぞ!!

 

こうしてホノオが「アニメのほうが向いてる」だの「やっぱり漫画が向いてる」だのグダグダしているうちにも、庵野秀明は着々と創作活動を続けてホノオとの差をどんどん引き離していく。気づけ!気づいてくれ!ホノオ!悩んでないでとにかく机に向かうのだ!!

 

一連の行動は自分がこれ以上傷つきたくないからなのだろうか。たしかに「少しでも壁にぶつかったら路線変更」を繰り返していけば、最小限の精神的ダメージで済むだろう。しかし、「漫画にすべきかアニメにすべきか」と悩み続けることで、自分は夢の実現に向けて行動しているのだという錯覚もしてしまう。結局は何も進んでなどいないのだ。実際に作品を創作していくなかで、トライアル・アンド・エラーを重ねるしか成長はない。

 

 

※ちなみに庵野秀明が当時制作したアニメーション「じょうぶなタイヤ」の実際の映像がコレ(2本あるうちの2本目)。

 

 

まあ同級生がこんなアニメ作ってきたら誰でも打ちのめされるよね。

 

 

『アオイホノオ』の作中にも登場する作家の岡田斗司夫氏は、ドラマ版「アオイホノオ」第1話放映時にこう語っている。

 

 

岡田氏のこのツイートは、ドラマ版「アオイホノオ」第1話において、ホノオが庵野秀明(ドラマ版では庵野ヒデアキ)らの制作した映像作品(先述の作品とは別のもの)に打ちのめされたシーンに際してのものだ。映像作品の上映会で、ホノオモユルはその映像の凄まじさに絶望した一方、他の学生たちは悔しがることなく大ウケしていた。

 

岡田氏のツイートの通り、ホノオは天才を見抜く力はあった。だからこそ、ホノオは他人の才能に嫉妬し、苦悩した。そしてその苦悩が、行動することを邪魔しているのだ。

 

見る目だけはあるホノオ。しかし思い通りの作品が創れない。創れても、庵野たちがそれを平然と越えていく。もう傷つきたくない。だから創らない。

 

がんばれホノオ!悩んでいるヒマなんかないぞ!とにかく創れ!創り続けるのだ!!

 

 

どうだろう。自伝的漫画とはいえ、作者の島本和彦氏がここまでダメダメだったかどうかはわからない。しかし、少なくとも本作のホノオモユルはダメダメだ。一方で、そんなホノオの「ダメダメ」のなかにも、誰もが経験したことのある「あるある」の要素が入っていることに気付かされる。本作がここまで面白く読めるのも、われわれにホノオのようなダメダメな一面が少なからず存在しているからに違いない。彼の行動を観察することで、改めて自分自身のダメダメな面を見つめなおしてみてはいかがだろう。

 

今回は3つの側面にクローズアップしてご紹介したが、2014年8月6日現在、単行本は12巻まで刊行されており、ホノオから学ぶべき要素はまだまだたくさんある。また機会があれば、ぜひともご紹介していこう。

 

 

柳楽優弥主演のドラマ版「アオイホノオ」は毎週金曜夜0時12分からテレビ東京系列で絶賛放送中だ。こちらも併せてご覧頂きたい。

 

 

(本文・倉住亮多

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