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ボーイズラブとは、人間同士の“関係性”を描いた珠玉の表現である

25/11/2014

 

今月の『美術手帖』がボーイズラブの特集を組んだと聞いて、遅ればせながら入手した。
ボーイズラブとは、「主に女性作家が創作する、男性同士の愛や絆の物語」である(同誌より)。
そして、ボーイズラブを好んで読む女性のことを「腐女子」と呼ぶ。

 

かくいう私も、成人腐女子の端くれである。
基本的には読み専(※1)だが、たまにPixivに作品を投稿することもある。
コミケ(※2)に行ったことはあるけれど、同人誌を描いたことはない。
そんなどこにでもいる成人腐女子の端くれが、今回の特集号の見どころを
紹介していこうと思う。

 

※1…「読みが専門の人」の略称。自分で作品を作らず、他人の作品を読むだけの人を指す。
※2…コミックマーケット。いわゆる同人誌の即売会だが、最近は企業の参加も増えてきた。

 

見どころ1 豪華執筆陣による描き下ろしイラスト『オトコとシゴト』

巻頭から目に飛び込んでくるのは、ボーイズラブ作家7名による描き下ろしイラストだ。
テーマは『オトコとシゴト』。
洋食屋の店員や機械設計士、はてはヤクザまで、多種多様な職業人のイラストが続く。
すべての作品をここで紹介したいところだが、気になる方は
ぜひ実際に同誌を手に取って確かめていただきたい。

 

さて、ボーイズラブ作品の特徴の一つとして、作中にさまざまな職業のキャラクターが
登場することが挙げられる。多くの場合、各業界の特徴や事情についても、
ていねいに描かれている。
これはボーイズラブ作品に限ったことではないではないか、と思われるかもしれないが、
主観として、女性向けの漫画にはファンタジーや学園ものが多く、
現実的な職業人を描いた作品はあまり多くないように感じる。

 

話を戻すが、ボーイズラブ作品においてさまざまな職業人が描かれることについて、
やおい・BL研究家の金田淳子さんがとても興味深い指摘をされている。

 

「三浦しをんさんは、BLでいろんな職業が描かれるということを
指摘されていますけど、それは現代日本では実質上、
男性にしか職業のバラエティーが用意されてないからですよね。
女ばかりのガテン系現場だとか、日本の内閣のほとんどが女だとかいう物語だと
現実離れしていて引いてしまう人がいるから、なかなかできないんですね」
(『美術手帖』12月号「萌える座談会」p.74より)

 

ボーイズラブ文化の源流である「少年愛漫画」が登場した70年代は、
女性は25歳を過ぎると家庭に入るのが一般的だった。
そのため、女性漫画家が女性を主役に描く漫画で扱えるテーマは、
必然的に限定されたものになっていたという。
当時と比べれば、いまは社会で働く女性も増えた。
安野モヨコさんの『働きマン』のように、バリバリ働く描く女性を描いた
漫画も登場している。

 

とはいえ、やはり男性が主役の場合と比べてしまうと、
扱えるテーマの幅は依然として狭いだろう。
ボーイズラブ作品でさまざまな職業人が描かれる背景には、
女性漫画家たちの「描くテーマの幅を広げたい」という
熱い想いがあったのかもしれない。

 

見どころ2 人気作家10人が語るボーイズラブ論!

「どうして男性同士の恋愛に『萌える』のか」。
ボーイズラブを読む人なら、一度は考えたことがあるのではないだろうか。
この問いへの答えは十人十色だと思うし、正解もないと思う。
それでも、「彼らの“関係性”に萌える」という点は、多分共通している。

 

同誌に掲載された人気作家10人へのインタビューの中で、
おそらく唯一の男性作家であり、かなりハードなボーイズラブ/ゲイ作品を
描かれている田亀源五郎さんが、以下のように語っている。

 

「…女性読者は、作品中の男性カップルのありように悶々とする傾向があります(笑)
…BL雑誌に描く時には、男ふたりの関係性を考えるようにしています」
(『美術手帖』12月号「10人のマンガ家が語るインタビュー」p.116より)

 

ボーイズラブ作品において重要なのは、登場人物同士の“関係性”が
いかにうまく描かれているか、という一点に尽きると思う。
先輩と後輩、先生と生徒、上司と部下、同級生、幼なじみ、家族…。
さまざまな関係性の中で、キャラクター同士がどのように触れ合い、
どのように互いを認識して行動するのか。

 

漫画作品である以上、ストーリーやキャラクターのビジュアルなども
重要な要素ではある。
しかし、主役となる二人の“関係性”が魅力的(=萌える)に描かれていれば、
他の要素が多少未熟だったとしても、ボーイズラブを嗜む人たち、
特に女性読者には、ある程度許容されている傾向がある。
その理由は、女性読者のボーイズラブ作品の読み方と関係がありそうだ。

 

女性読者にとって、ボーイズラブ作品の主役である男性は、当然ながら異性である。
そのため、よく「ボーイズラブ作品の女性読者はキャラクターに自己の性的アイデンティティを
投影することなく、俯瞰的にキャラクター同士のやりとりを眺めている」と言われる。
自分とはまったく関係のない世界で営まれる人間模様は、
読者の「妄想」が入る余地を与える。
いわゆる「腐女子フィルター」だとか「行間を読む」と呼ばれる行為である。
キャラクター同士の“関係性”が魅力的であればあるほど、
それらの行為は大変捗る。
妄想の原動力である「萌え」は、作品への愛がある限り尽きることがない。

 

しかし、キャラクター同士の関係性に「萌える」ということは、
女性読者がボーイズラブを「完全に」俯瞰的には見ていない、ということを
意味しているのではないだろうか。
「萌え」という感情の高まりは、キャラクターへのなんらかの「共感」がなければ
生じ得ないからだ。
おそらく、女性読者は性的なアイデンティティとは違った「何か」を
作中のキャラクターに重ねることで、彼らに「共感」しているのだろう。
その「何か」については、「見どころ3」で少し触れてみたいと思う。

 

キャラクター同士の関係性に「萌える」ことに触れたついでに、
二次創作(※3)で描かれるボーイズラブについても少し考えてみたい。
いわゆるBL二次創作を読んでいると、そこで描かれるキャラクターたちは
大体「キャラ崩壊」(※4)している。
…本来ヘテロ(※5)であろう彼らでBL妄想をしている時点で
キャラ崩壊が必至であることは重々承知だが、
ここではあえてその矛盾には目をつぶっていただき、
彼らの言動や性格の「崩壊」について指摘したい。

 

原作ありきの二次創作作品において、なぜキャラクター本来の
言動や性格からは想像できないような描かれ方が
受け入れられているのか。
その答えも、キャラクター同士の“関係性”にあるだろう。

 

わかりやすい例かどうかはわからないが、
『進撃の巨人』の主人公エレンと、その上官であるリヴァイ兵長を例に
考えてみよう。
原作における彼らが恋愛関係に発展する様子はまったくないが、
兵長とエレンの関係をボーイズラブ化した二次創作は数多く存在する。
そして作品の中では、エレンが兵長の前であざと可愛い素振りを見せたり
(いわゆる「あざとイエーガー」)、逆に兵長がエレンにデレたりする姿が
当然のように描かれている。

 

このような「キャラ崩壊」が描かれ、決して少なくない数の腐女子に
受け入れられている理由は、二人の“関係性”ー上司と部下、エレンの兵長に対する憧れ、
兵長のエレンへの優しさーがしっかりと維持されているからだろう。
たとえエレンが潤んだ瞳で「へいちょ…」とか言っていても、
兵長が「エレンくそかわ」とか言っていても、二人の“関係性”さえ
損なわれていなければ問題ないのである。多分。

 

つい蛇足が長引いてしまったが、こうして同誌の作家インタビューを読みながら
自分自身のボーイズラブ論を考えてみるのも、また楽しい。
個人的には『新宿ラッキーホール』や『昭和元禄落語心中』の作者、
雲田はるこさんのインタビューに共感しきりだった。

 

特に、ボーイズラブ作品における濡れ場の必要性に関しては
長らく自身の考えをうまく言葉にできなくて悶々としていたのだが、
雲田さんの「読み心地の到達点」という表現がとても腑に落ちた。
これについて語り出すと止まらなくなりそうなのでここでは割愛するが、
ぜひ多くの人に読んでもらいたいインタビューである。

 

※3…原作(一次創作)のファンによるパロディ作品のこと。
※4…キャラクター本来の性格からかけ離れた言動や行為をしていること。
※5…異性愛者。

 

見どころ3 ボーイズラブ徹底論考!BLは奥が深い

同誌には、「ボーイズラブから考える」というテーマで書かれた論考が
3本収録されている。
70年代初頭の少年愛漫画と現代のボーイズラブをつなぐ表現をほどく
松井みどりさんの『少年の器、少女の愛 24年組とBLマンガの交差点』、
「ボーイズラブが苦手」という暮沢剛巳さんによるショタ・男の娘・女装少年が
テーマの『趣味の共同体の外側で―BLが苦手な男の独り言』、
そして女性読者の性的アイデンティティにせまる、泉信行さんの
『恋の心のシミュレート 同/異性をめぐるキャラクターの表現』である。

 

3本とも大変読み応えがあり、「そうだったのか!」と新たな発見をしながら
楽しく読ませていただいたが、ここでは泉さんの論考を少しだけ紹介したい。

 

前項で、「女性読者は性的なアイデンティティとは違った『何か』を
作中のキャラクターに重ねることで、彼らに『共感』している」と書いたが、
泉さんも「『腐女子は他人事を俯瞰して眺めるのが好きで自己投影はしない』という、
よく広められている説に一石を投じるべき」と述べている。

 

では、女性読者がボーイズラブ作品のキャラクターに重ねる「何か」とは
一体なんなのか。
これに関して、泉さんは「恋心のシミュレート」という視点から考察を試みている。
ボーイズラブに限らず、私たちが恋愛ものの作品を読むときは、
登場するキャラクターを客観的に「魅力的だ」と判断するだけではなく、
相手のキャラクターへの想いに共感したり、恋愛関係が発展した先にある
性愛についても思いを馳せるだろう。

 

女性読者がボーイズラブを読むときも、ただ俯瞰的にキャラクターを
眺めているだけではない。
彼らの心情や感覚を「シミュレート」し、共感することができるからこそ
「萌える」のだ。
人が人を愛する気持ちというものは、性別を超越した尊い感情なのだろう。
ボーイズラブは奥が深い…。
そう感じずにはいられない論考だった。

 

まだまだ語りたいことは尽きないが、ここから先はぜひみなさんに
同誌を読んでいただき、できれば一緒に語りたい。
ボーイズラブ作品の読者はもちろん、ボーイズラブをよく知らない、
またはあまり好きではない人にもぜひ読んでほしい特集だ。

 

 

リファレンス

『美術手帖』
2014年12月号(11月17日発売)
定価1,600+税円

 

(ライター:カクノ アイキャッチ:『美術手帖』12月号表紙 via Amazon.co.jp)

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