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絵本を最後に読んだのはいつ?思い出せない?そんな人にすすめたい、『木に持ちあげられた家』

31/10/2014

 

絵本を最後に読んだのはいつだろう?

ほとんどの人にとって、それはいつだったか思い出せないほど昔のことなのではないだろうか。

実際、筆者もそのうちの一人だ。だけど実はそれ・・・

 

めちゃくちゃもったいない!!!

 

 

そう筆者が気付かされた絵本がある。

 

その絵本とは、『木に持ちあげられた家』(作=テッド・クーザー,絵=ジョン・クラッセン,訳=柴田元幸)だ。

アメリカを代表する詩人であるテッド・クーザー氏の文章と、カナダ出身の絵本作家ジョン・クラッセンが手掛けた絵でつくられた本書。翻訳家の柴田元幸氏が訳し、10月25日から発売されている。

今回は、この絵本と絵本そのものの魅力をとことん紹介したい。

 

 

 

とるにたらない物事たちの、物語

 

 

早速だがこの絵本、どんな物語なのか。

 

それは、ある兄妹とその父親が住んでいた家のお話。子どもだった兄妹もいつしか大人になり、家を出る。その後、しばらくの間ひとりで住んでいた父親も、老いてから家を出る。誰も住まなくなった家。その周りには、風に乗ってやってきた木の種子たちが育つ。やがて高く育った木々に持ち上げられて、家はツリーハウスになる。そういう話だ。

 

 

それだけ?それだけだ。

え?ちっとも魅力的じゃない?

たしかに、そう思うのも不思議ではない。「家が持ち上がった…!これからどんな劇的な物語がはじまるんだろう…」とさえ期待させない。この絵本は家が持ち上がるまでのみを描いた物語なのだ。

だけど、ちょっと待ってほしい。

逆に考えてみたらどうだろう。この絵本は、「だれも気に留めないような、とるにたらない物事を主題にして物語を描くことができている」と。

 

文面にすればかくも味気ないように思える物語。だがそれは絵本で読んでみると、まったく別物となるのだ。どういうことか。

絵本は、映像ほど「画」が連続しているわけでもなく、小説ほど多くの言葉で説明されているわけでもない。「画」も「言葉」も不完全なのだ。だがその不完全さは、足りないピースを埋めさせるかのように、僕たちの想像をかきたてる。だからなのだろう、とるにたらない物語でさえ、どこまでも自由な想像力に補完され、より充実した内容となるのだ。

 

本作では登場人物の顔が描かれない。それについてクラッセンは、こう言う。

 

老人が一人で住んでいる、その気持ちは僕にはわからない。目や鼻を描いたら、マンガになってしまうかもしれない。描いてない方が、僕にとってはこの人が……よりリアルなんです。

 

『MONKEY』 vol.3 p.23-24「ジョン・クラッセン インタビュー 読者を信頼する職人」より)

 

足りないピースがあるということこそ、想像の源泉だ。顔が描かれないからこそ、僕たちはその人の顔を想像する。ひとり家に住む老人の顔、表情、気持ちまでも考えさせられる。それは顔だけの話ではない。家を出た後の兄妹は、父親は、どうしたのか。木に持ち上げられた後に家はどうなったのか。そんなことに思いを巡らせることができるのだ。

絵本の手にかかれば、どんな些末な物事であっても、とても味わい深いものになるのかもしれない。

 

 

 

「日常から離陸する」

 

 

そんなことを考えていて、ふと思い出した一節がある。

 

童話は日常から離陸することが許され、奨励されている分野である。経験を積むことで大人は現実主義に傾いて保守化してゆくのに対して、子供はまだまだ人間本来の精神の姿を写して天衣無縫、いくらでも想像の翼を広げることができる。文学が生きることにまつわる問題を考える一つの手段であるとすれば、大人のための文学は卑小な生活感の中でそれをしなければならないのに対して、子供が読む文学はもっと大きくて根源的な問題を奔放に語ることができる。

 

池澤夏樹『言葉の流星群』p.207より

 

池澤夏樹が宮沢賢治を読み解いた著書の一節だ。賢治が考えた根源的で哲学的な主題を収めるには、「小説」は器が小さすぎたという。

 

絵本は童話と同じで、子どもが読むものだ。そこではあらゆる“大人の”形式を無視することができる。絵本は表現の可能性についてとても寛容なのだ。

日常で凝り固まった思考を解きほぐしたいとき、ぜひ絵本を手に取ってみてはいかがだろう。

 

 

おわりに

 

 

本書の魅力について考えていると、あまり多くを言葉で語ることが陳腐に思えてくる。あまり深く考えることではないのだろう。

 

とりあえず、ぜひ本書を手に取ってほしいと思う。本書は「絵本」そのものの魅力をすぐれてよく伝える作品だ。

読めばきっと、また絵本の魅力を感じることができるだろう。

 

 

 

(ライター:マチドリ)

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