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動物漫画としての『寄生獣』〜のけものにされた「ケモノ」たち〜【中編】

17/07/2014

 

 

前回記事:動物漫画としての『寄生獣』〜のけものにされた「ケモノ」たち〜【前編】

 

 

※記事の性質上、多少のネタバレが含まれます。作品の結末に関する直接的な言及はありませんが、気になる方はご注意いただきますようお願いします。

 

 

岩明均による名作SF漫画『寄生獣』を「動物漫画」として読み解いていくこの企画。前編では『寄生獣(完全版)』第1巻に登場する動物のうち「パラサイト犬」と「ネコ」をご紹介いたしました。

 

今回は後編!……と行きたいところでしたが、予定よりも文章量が多くなりまして、後編をさらに二つに分けることとなってしまいました。というわけで結局のところ、前編・中編・後編の三部作になったわけですが、今回はその中編をお送りします。

 

中編では、『寄生獣(完全版)』第1巻に登場する「ライオン」についてご紹介していきましょう。

 

 

【動物その3】ライオン

 

突如として広場に現れたライオン(岩明均『寄生獣(完全版)』第1巻 p.118)

突如として広場に現れたライオン(岩明均『寄生獣(完全版)』第1巻 p.118)

 

第4話「殺気」の冒頭で突如として広場に現れ、次々と人間に襲いかかるのがこのライオンです。「パラサイト犬」のようにパラサイトに寄生されているわけではありません。ごく普通のライオンです。そしてこのライオン、登場があまりにも唐突です。何の説明もなしにいきなり現れ、人々を殺戮していった後、ふらりとやってきたパラサイト(後に「A」と名の付く男)にあっさりやられてしまいます。作者がここでライオンを登場させた意図はどこにあったのでしょう?

 

その答えとして真っ先に考えられるのは、パラサイトの強さを表現するために登場させたのではないかということです。「百獣の王」をも一瞬で倒すことのできる存在こそが、本作における「パラサイト」である、というように。まあ、これも一つの正解であるかもしれませんが、少々浅薄な気もします。本当にこれだけの理由でライオンが脈絡なく突然出てくるでしょうか。もう少しだけ、詳しく見ていきたいと思います。

 

 

「ネコ」のエピソードとの関連性

 

このライオンは、前編でご紹介したネコのエピソード(第3話)の直後に登場します。ネコとライオン、共にネコ科の動物ですが、作中での扱われ方は真逆です。第3話でのネコは、心ない少年たちによって理不尽にいじめられており、非常にか弱い存在として描かれていました。一方で第4話の冒頭から登場するライオンは、その場に居合わせた人間たちを次々と殺害していきます。「人間」と「動物」の立場が、この二つのエピソードで逆転しているわけです。

 

しかしながら、この二つのエピソードは全く共通の構造を持っています。第3話において、少年たちに啖呵を切った新一は、腹いせに石を投げつけられますが、ミギーの力によって見事に石をキャッチ。そして自分の言葉が伝わらなかったことに対し、悲しげな表情を浮かべた後、強烈な殺意をもって少年たちを睨みつけます。

 

新一は人間ですが、ここで少年たちを睨みつける際の目つきは明らかにパラサイトのそれです。「ミギー」と身体を共有していることで、この時点で既に感情にも変化が生じているのです。通常の怒りを通り越して、強い殺意で少年たちを威嚇してしまったのでしょう。

 

第3話にて少年たちを睨みつける新一(岩明均『寄生獣(完全版)』第1巻 p.114)

第3話にて少年たちを睨みつける新一(岩明均『寄生獣(完全版)』第1巻 p.114)

 

新一の殺気に恐れをなした少年たちと同様に、第4話におけるライオンも、目の前に現れたパラサイトに恐怖感を覚えます(しかし結局、自身に芽生えた恐怖を信じきることが出来ずパラサイトに立ち向かい、返り討ちにあってしまいますが)。つまり、この二つのエピソードでは、「人間」が「動物」を虐げたり、「動物」が「人間」を殺めたりといった両者の対立よりも、パラサイトが放つ殺気に恐怖を覚える(人間も含めた)「動物たち」のか弱さが伝わるエピソードとなっています。それを象徴する重要なキーワードが「痛がり屋」です。

 

 

「痛がり屋」としての「動物」たち

 

ライオンはパラサイトと対峙したとき、野生の勘で目の前の「人間」が自分よりも強いのではないかと悟り、一瞬、恐怖を覚えます。そしてその様子を見たパラサイトはこうつぶやくのです。

 

「強い恐怖心だ…… 哺乳類は みんな痛がり屋だな」(岩明均『寄生獣(完全版)』第1巻 p.124)

 

「痛がり屋」――非常に興味深い表現です。この言葉からは、これまで自分が殺してきた人間たちが見せた恐怖心から、パラサイトが経験的に「哺乳類」を「みんな痛がり屋」であると解釈したことが推測できます。

 

怖がるライオンを「痛がり屋」と評するパラサイト「A」(岩明均『寄生獣(完全版)』第1巻 p.124)

怖がるライオンを「痛がり屋」と評するパラサイト「A」(岩明均『寄生獣(完全版)』第1巻 p.124)

 

先述の通り、第3話でネコをいじめていた少年たちも、異様な殺気を放つ新一に対してはっきりと恐怖心を抱いています。彼らもまた、「痛がり屋」だったのです。

 

第4話の後半部では、新一をよく思わないクラスメイトの古谷が突然ケンカをふっかけてきますが、古谷はミギーの力によって一蹴され、気絶。気がついた古谷は新一を見るやいなや、異常な怯えようで走り去っていきます。不思議がる新一に、ミギーは、あいつは「痛がり屋」だと語ります。

 

逃げた古谷を「痛がり屋」と評するミギー(岩明均『寄生獣(完全版)』第1巻 p.141)

逃げた古谷を「痛がり屋」と評するミギー(岩明均『寄生獣(完全版)』第1巻 p.141)

 

「人間」と「動物」の争いも、パラサイト側から見れば「哺乳類」(あるいは地球上の生物)という括りの中で争っているに過ぎないのかもしれません。そして皆、か弱い「痛がり屋」なのです。

 

ライオンは、人間を含めた「動物たち」が、「痛がり屋」であることを示すために重要な役割を果たしていました。しかし彼は野生のライオンではなく、生まれつき人間によって飼われていたペットでした。パラサイトと対峙した際に芽生えた恐怖心を信じることができず、立ち向かい、殺されます。人間に飼いならされていたがゆえに、自分の感覚に正直でいることができなかった。なんとも皮肉な話です。かわいそうなライオン…。

 

 

それにしても「痛がり屋」っていい言葉ですね。パラサイトはネガティブな表現として使っているようですが、要は「想像力」を表す言葉ですよね。痛がれる感覚があるからこそ、「痛がり屋」たちは工夫を凝らして危機を回避しようとします。そして彼らは、皆がより生きやすい環境を築いていく能力を、持っているはずです。

 

 

【次回予告】

で、みなさんお気づきでしょうかね?この時点でまだ第一巻だということに…。この企画、次回で本当に終わるのかとお思いかもしれませんが、ちゃんと終わります。後編ではいよいよ、本作における最重要動物「子イヌ」が登場。この「子イヌ」、本作を一度でも読んだことのある方ならまず忘れられないはず。見切り発車で始めた本企画はいったいどんな結末を見せるのでしょうか。お楽しみに!

 

あ、予告編出てましたね!

 

 

(本文:倉住亮多

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