22/12/2014
12月20日に開催された早稲田大学のシンポジウムで、大学講師であり「ハッカー」としても知られる八田真行さんが、身元を特定されず安全に内部告発ができるリークサイト「Whistleblowing.jp」(内部告発.jp)の開設を発表しました。
同サイトはすでにデモサイトとして構築済みで、早ければ来年の2月には運用を開始するそうです。
日本初となる匿名内部告発サイトの登場にはメディア各社も注目しており、多くの記事でシンポジウムの模様が取りあげられています。
・匿名リークサイト:来年にも国内で初開設、報道に活用 – 毎日新聞
・内部告発者と記者、サイトでつなぐ 大学講師が立ち上げ:朝日新聞デジタル
・身元を特定されず、ジャーナリストに告発情報を届けるサイト「内部告発.jp」始動へ|弁護士ドットコムニュース
なお、八田さんが当日使用した発表用のスライドも公開されているので、是非ご覧ください。
・Whistleblowing.jp (内部告発.jp)の構想(The concept of Whistleblowing.jp)
朝日新聞やNHKなどのマスメディアには、既にインターネットで投稿する情報提供窓口が用意されています。
「内部告発.jp」がそれらと異なるのは、「Tor」という特殊な匿名化技術を使ってアクセスすることで、情報提供者の情報を完全に秘匿できるところです。
・設定不要の匿名接続「Tor(トーア)」の簡単な使い方 – BTOパソコン.jp
「内部告発.jp」には「政治」や「金融」など、それぞれのジャンルに詳しいジャーナリストが登録されており、告発者は任意のジャーナリストに情報を提供することできます。
一方で、「Wikileaks」のように誰もが告発情報を閲覧・編集することはできません。実際に報道するかどうか、また情報の真偽についての判断もジャーナリストに任されています。
情報を受け取ったジャーナリストと内部告発者は、双方しか閲覧できない掲示板を通して情報交換することができます。
ジャーナリストは告発情報と掲示板での情報交換をもとに、取材を進めていきます。
ちなみにこの掲示板や告発情報は、2週間で自動的にWebサイトから消去される仕組みになっています。
告発情報の受け手はあらかじめ登録されているジャーナリストのみ、さらに告発者が指定したジャーナリストしか情報を受け取れない、というクローズドな仕組みですが、だからこそ高い匿名性が担保されているとも言えるでしょう。
なお、誰もが気軽にジャーナリスト登録できるというわけではなく、あらかじめ匿名化ツールの利用方法などについてトレーニングプログラムを受講する必要があります。
デモサイトを使った具体的な告発の流れは、以下のITmediaの記事に詳しいので、こちらをご覧ください。
・Tor使った匿名告発サイト日本版、来年稼働へ 「技術でジャーナリズムの刷新を」 – ITmedia ニュース
最近では、匿名掲示板とされる「2ちゃんねる」に犯罪予告などを投稿して逮捕されるケースもあり、インターネットにおいて単に名前を秘密にするだけでは匿名にならないことが知られています。
また、昨年は米中央情報局(CIA)元職員のエドワード・スノーデン氏が米国の検閲システム「プリズム」の存在を暴露し、私たちが日常で使っているGmailやFacebookなどでのやりとりが、もはや秘密にはなり得ないことが明らかになりました。
さらに、日本では公益通報者保護制度があるものの、内部告発者の身分が守られているとは言いがたい状況です。
今後は特定秘密保護法の影響で、ますます内部告発がしにくくなることが予想されます。
・オリンパス内部通報制度 「通報者の名前を開示」で二転三転 – 法と経済のジャーナル Asahi Judiciary
・「秘密保護法で内部告発が萎縮」公益通報者保護法改正を要請 – 法と経済のジャーナル Asahi Judiciary
匿名性が担保されたリークサイトの存在は、このような技術的・法律的な欠陥を補完するものとなりそうです。
海外では2013年頃から匿名化技術を用いた内部告発支援サイトが複数登場し始め、「内部告発.jp」も、オランダの「Publeaks」というサイトを参考にしています。
また、以下の記事で指摘されているように、米国のワシントンポストや英国のガーディアンなどのメディアは、自社で暗号化技術を用いた告発サイトを開設しているそうです。
・日本版「告発サイト」、2月に開設 ウィキリークスとの違いは – withnews(ウィズニュース)
シンポジウムのはじめに、進行を務めた早稲田大学准教授の田中幹人さんが、「学生を見ていると、やりとりされているメールが覗き見されている可能性に対して無頓着であることを痛感している」と話しました。
これが学生ではなくジャーナリストであれば、単にプライバシーの問題だけでなく、言論の自由に対する侵害や取材源の秘匿といった問題にも繋がる可能性があります。
プリズムのような仕組みが極秘裏に運営されているいま、ジャーナリストはテクノロジーを駆使して自分の身を自分で守らなければならない時代になったと言えるでしょう。
英語圏のWebサイトでは、ジャーナリスト向けのサイバーセキュリティに関するノウハウを紹介する記事が、いくつもヒットします。
・Top cybersecurity tips and tools for journalists – World News Publishing Focus by WAN-IFRA
例えば上記のページでは、「Webサイトにアクセスする際はHTTPSを使いましょう」というTIPSや、Webブラウザの「Tor」、メールソフトの「Hashmail」といった、匿名性を維持する具体的なツールも紹介しています。
一方で、政府による情報隠蔽を技術的に回避する方法を紹介する記事もあります。
・5 applications for journalists to visit blocked sites | Internews Center for Innovation & Learning
上記のページでは、政府からアクセス制限されているサイトに、海外のプロキシを経由してアクセスできるアプリケーションを紹介しています。
サイバースペースにおける情報戦の時代、攻守ともに役立つテクノロジーが、ジャーナリストにとって必須のスキルになることは間違いありません。
ジャーナリストの常岡浩介さんが、「イスラム国」の戦闘員になりたいという男子学生のシリア渡航を計画したとして、私戦予備・陰謀の疑いで家宅捜索を受けたという事件は、日本においてもジャーナリストの持つ情報が危険に曝されていることを明るみに出しました。
「内部告発.jp」の登場は、日本のジャーナリズムも次のステージに進まなければならないということを象徴しています。
日本のジャーナリスト全員が、当たり前のように匿名化技術を使う時代は、すぐそこまできているのでしょう。
(ライター:カガワ)
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