22/11/2014
3週に渡って、楽器の話をしてきたので、
そろそろ楽曲について書きたいと思います。
今回ご紹介するのは、管弦楽のジャンルのひとつである「交響詩」です。
「詩」という言葉が入っていることからも分かりますが、
交響詩とは、それぞれの曲に場面や情景が想定された管弦楽曲です。
だからこそ、他のクラシック曲に比べて解釈しやすいジャンルなのです。
作曲家の妄想が伝わってくる交響詩は、
私たちの妄想のBGMとしてもうってつけかもしれません。
今回は、交響詩を3曲ご紹介します。
ぜひ、曲を聴いてまず妄想を膨らませてみてください。
動画を紹介した後に作曲家が思い描いた情景などの解説を載せておくので、
そこで妄想と作者の描いた情景を答え合わせしてみましょう。
解説を見てから曲を聴くのも良いかもしれません。
目次
*交響詩とは…
*8分38秒
*12分32秒
*40分41秒
*おわりに
交響詩 symphonic poem[英] 管弦楽によって詩的あるいは絵画的内容をあらわそうとするもので、〔題をつけるなどして聴き手の解釈に一定の方向性をもたせる楽曲である〕標題音楽の一種。多くの場合一楽章からなる。(中略)ベルリオーズの標題交響曲の形式と標題の展開の不一致をさけ、主題を詩的観念にしたがって自由に変容してゆく新しい形式の管弦楽曲がうまれた。これが交響詩である。そしてこれをいっそう発展させたのがR.シュトラウスである。シュトラウスにより、交響詩は、音詩(トーンディヒトゥング)と名づけられ、絵画的要素のほかに抽象性ももつようになった。
-目黒惇編『音楽中事典』音楽之友社(亀甲括弧内筆者)
フランスの作曲家であるサン・サーンス作曲「死の舞踏」でした。
フィギュアスケートのキム・ヨナ選手が2009年に使用した曲でもあります。
程よいテンポ感と怪しげな音が妄想を促進しますね。
1874年、フランスの詩人であるアンリ・カザリスの詩に暗示を受けて、
墓場で踊る骸骨を描写した曲だそうです。
午前0時を知らせる時計の音とともに骸骨が現れて不気味に踊り始め、
次第に激しさを増してゆきます。
夜明けを告げる雄鶏の声が響きわたると骸骨は墓に逃げ帰り、
辺りが再び静寂につつまれる――。そんな様子を描写的に描いているそうです。
さて、気になるカザリスの詩はこちら。
ジグ、ジグ、ジグ、墓石の上
踵で拍子を取りながら
真夜中に死神が奏でるは舞踏の調べ
ジグ、ジグ、ジグ、ヴァイオリンで
冬の風は吹きすさび、夜は深い
菩提樹から漏れる呻き声
青白い骸骨が闇から舞い出で
屍衣を纏いて跳ね回る
ジグ、ジグ、ジグ、体を捩らせ
踊る者どもの骨がかちゃかちゃと擦れ合う音が聞こえよう
静かに!突然踊りは止み、押しあいへしあい逃げていく
暁を告げる鶏が鳴いたのだ
(Wikipediaより)
また、詩と音の対応部分はこのようになっています。
(Wikipediaより)
みなさんはどんな場面を想像しましたか?
個人的には、中世ヨーロッパの兵士が馬に乗って戦いに向かう場面を妄想しました。
イメージ的にはロード・オブ・ザ・リング……
チェコ出身の作曲家であるベドルジハ・スメタナ作曲「我が祖国」よりモルダウでした。
こちらは有名な曲なので聴いたことのある人も多いかと思いますが、
どのようなイメージを元に作られたかご存知でしたか?
モルダウはチェコ語の読み方ではヴルダヴァと読む、
チェコ国内最長の川です。
モルダウは六つの交響詩からなる連作交響詩《我が祖国》の第二曲目です。
♪モルダウの主題
モルダウ河の水源の描写。
早朝のまだ薄暗い水源のささやかな流れが、フルートの忙しそうな上行音階で描かれます。
言われてみれば、川の上流で水がチョロチョロと流れている場面が浮かんでくる気がしました。
クラリネットの下行音階や弦が加わって音の厚みが出てくる様子は、
下流に行くにしたがって水嵩が増えてゆく感じを彷彿とさせます。
♪森の狩猟の描写
ホルンの四重奏が狩猟の様子を表現。
弦楽器は変わらず川の流れを奏で続けます。
♪農民の婚礼
田舎の農民達の婚礼の舞踊の様子。
遠ざかるように音量も小さくなり、夜になります。
♪月の光
水の精が月光に誘われて踊る様子。
♪モルダウの主題
最初に登場した主題が再び登場します。
今回は朝日が出て川が次第に騒がしく流れる様子を表しています。
♪聖ヨハネの急流
弦楽器が、断崖の下を流れる轟々とした急流と水しぶきを表現しています。
金管楽器と弦楽器が大音量で鳴り響く中、木管楽器が主題を転調させます。
♪プラハ市
《我が祖国》第一曲〈高い城〉の主題の変形が登場します。
ボヘミア王が居た城の側を流れていることを表しているとか。
自分が川の水の一滴となって、
上流から下っていく感じが上手く表現されている曲だと思います。
連作交響詩ということで6曲合わせると1時間を超えますが、
興味を持った方はぜひこちらからどうぞ。
リヒャルト・シュトラウス作曲「ドン・キホーテ」でした。
この楽曲は、スペインの作家・セルバンテスによる、ドン・キホーテと
従者サンチョ・パンサの冒険物語をもとに作曲されたものです。
チェロの独奏がドン・キホーテ、
ヴィオラ独奏がサンチョ・パンサを表現している他、
ドン・キホーテを表す主題やサンチョ・パンサを表す主題が分かりやすく登場します。
♪序奏
ドン・キホーテとサンチョ・パンサが紹介され、物語が始まる場面。
ドン・キホーテの気まぐれな雰囲気や騎士の性格、不安定な気質が表現された後、
ドン・キホーテは騎士道につての物語を読み始めますが、
物語の中を行ったり来たりしているうちに精神錯乱に至ってしまいます。
自分を騎士だと思い込むのでした。
♪第一変奏:風車の冒険
風車を巨人と思い込んで戦いを挑む場面。
風で風車が回ってしまい、ドン・キホーテは地面に叩き付けられてしまいます。
♪第二変奏:羊に対する冒険
羊の群れを敵だと勘違いして蹴散らす場面。
金管楽器のフラッター奏法が羊の鳴き声を再現します。
弦楽器のトレモロ奏法で羊の群れが巻き起こす砂埃も表しているなど、
情景がわかりやすいです。
♪第三変奏:サンチョの会話、疑問、要求とことわざ。ドン・キホーテの教示、ご機嫌とりと約束
地に足のついた常識人のサンチョと夢見がちな主人の間に起こる口論の場面。
チェロとヴィオラのソロがそれぞれを表現します。
♪第四変奏:行列に対する冒険
厳しい干ばつに苦しみ雨を祈りながら、聖母像を胸に歩く懺悔の一行に出会う場面。
ドン・キホーテは聖母像を誘拐された貴婦人だと思い、救出のために突入するが、
地面に叩き付けられて気を失ってしまいます。
♪第五変奏:ドン・キホーテの夏の夜の思い出
夜、ドン・キホーテが想像の世界に住む貴婦人である
ドゥルシネーアの美しさについて瞑想する場面。
チェロの独奏で描かれます。
♪第六変奏:ドゥルシネーアの魔法
ドゥルシネーアに会いに行くことを決心し、彼女を探す場面。
サンチョは通りかかった3人の農民娘達を
ドゥルシネーアとお付の「ふたりの侍女たち」だとドン・キホーテに信じ込ませます。
♪第七変奏:魔法の馬
公爵夫妻に騙された二人が目隠しをして木馬に乗る場面。
乗っている木馬を魔法の馬と信じてひげの女性の救出に向かいます。
最低音を担うコントラバス(レの音)が実際には地に固定されている馬の足を表現しています。
♪第八変奏:魔法をかけられた船をめぐる物語
川岸で見つけた船に2人が乗り込むと、水車小屋に向かって流されていき、
大破しそうになる場面。
ずぶぬれになった二人から滴る水を弦楽器が表現します。
♪第九変奏:修行僧に対する冒険
2本のファゴットで表現される2人の修行僧を悪魔と勘違いして襲い掛かる場面。
修行僧たちが逃げ出し、ドン・キホーテは旅を続けます。
♪第十変奏:決闘
ドン・キホーテの隣人、サムソン・カラスコがドン・キホーテの幸せを心から願い、
旅をやめさせるために決闘を申し込む場面。
一度は敗れるものの、二度目に勝利をおさめたことで、
ドン・キホーテは故郷に帰ります。
♪終曲
故郷の村で死の床にある場面。
旅を回想するため、それまでに登場した主題が再登場します。
最後にチェロがドン・キホーテの死を表現して終わります。
映画音楽のように、場面の情景が浮かびやすい音楽だと思います。
チェロとヴィオラの掛け合いも、人が話しているように思えてくるから不思議です。
いかがでしたでしょうか。
クラシック音楽の中でも、特に器楽曲は声楽と違って歌詞がありません。
個人的には、そこがいいところだと思っています。
言葉がない分、妄想し放題じゃないですか!
交響詩をBGMに自分が物語の主人公になったつもりで作業するのも楽しいですよ。
リファレンス
リヒャルト・シュトラウス 交響詩≪ドン・キホーテ≫ 全音楽譜出版社
モルダウ 連作交響詩≪我が祖国≫第2曲 解説 稲田泰 日本楽譜出版社
(ライター:シムラ アイキャッチ:Wikipedia)
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